大阪地方裁判所 昭和28年(ワ)3596号 判決
原告 永田粂七
被告 野間正彦
一、主 文
被告は原告に対し金弐拾六万円及びこれに対する昭和二十八年六月二十四日以降完済に至るまで年六分の割合による金員を支払わねばならない。
訴訟費用は被告の負担とする。
本判決は原告において金九万円の担保を供するときは仮りに執行することができる。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文第一、二項と同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め其の請求の原因として訴外大阪造機株式会社は昭和二十八年四月十日金額二十六万円、支払期日同年六月二十三日、振出地支払地共に大阪市、支払場所株式会社住友銀行西野田支店、と定めた被告宛約束手形一通を振出し被告は同年四月十三日右手形を支払拒絶証書作成義務を免除して白地式裏書により原告に対し譲渡したので原告は其の所持者として同年六月二十四日右支払場所において右手形を呈示して支払を求めたが拒絶せられた。原告は同年六月二十六日被告に対し右手形金の償還を請求するも応じないので茲に被告に対し右手形金二十六万円及びこれに対する前記満期後である昭和二十八年六月二十四日以降完済に至るまで手形法所定の年六分の割合による法定利息金の支払を求めるため本訴に及ぶと陳述し、被告主張の金員貸借を否認する本件は手形売買を内容とする割引であるから利息制限法の適用がないと述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする旨の判決を求め答弁として原告の主張事実はこれを認める。しかしながら被告は本件手形の振出人訴外大阪造機株式会社の金融を援助する意味において原告に手形割引による金員貸借を求め原告よりの借用金返済のため本件手形を原告に裏書譲渡したものであるところ原告は金融業の免許を受けて居ないのに本件手形金額二十六万円に対し月六分の割合による利息二ケ月分金三万千二百円を天引し金二十二万八千八百円を被告に交付したに過ぎないものである。右利息は法定の年六分を著しく超過する高利で超過部分金二万八千六百円(元金二十六万円に対する年六分の割合による一ケ月分金千三百円、二ケ月分金二千六百円の利息金を右天引利息金三万千二百円より控除したもの)は法律上無効であるから被告は元金二十二万八千八百円及びこれに対する本件手形の裏書譲渡の日から支払済に至るまで年六分の割合による利息金の支払義務を負担するに過ぎない。仮りに右抗弁が理由ないとするも右超過部分を元本に繰入れて原告がこれを利得することは公平の観念に反するから原告は本件手形金額二十六万円より右超過額を控除した金二十三万千四百円を元本として請求すべき筋合であるからこれを超える本訴請求は失当であると陳述した。<立証省略>
三、理 由
昭和二十八年四月十三日被告が訴外大阪造機株式会社振出にかかる原告主張の約束手形一通を支払拒絶証書義務を免除した白地式裏書により原告に譲渡し原告が其の所持人として法定の支払呈示期間内である原告主張の日時右手形所定の支払場所に右手形を呈示して支払を求めたが拒絶せられたことは原被告間に争ないところである。被告は原告に対し右手形の割引を受けて金員を借用したところ原告が右手形金額二十六万円より月六分の割合による二ケ月分の割引利息金三万千二百円を天引して被告に対し金二十二万八千八百円を交付したものであるから年六分の法定利息金二千六百円を著しく超過する利息は法律上無効で被告は元金二十二万八千八百円につき支払の責を負うものである。仮りにそうでないとしても本件手形金額より右法定利息超過分金二万八千六百円を控除した残元金二十三万千四百円についてのみ本件手形上の支払債務を負担する旨抗弁するから按ずるに被告が原告との間に本件手形額面金二十六万円につき金員消費貸借契約を締結し右債務弁済確保のために自己の所持する本件手形を原告に裏書譲渡したものであることはこれを認むべき証拠がない。却つて証人清水喜三郎の証言及び被告本人の供述に依れば被告が訴外大阪造機株式会社振出にかかる本件手形に白地式裏書をして訴外清水喜三郎に右手形割引の斡旋方を依頼し同訴外人が昭和二十八年四月十三日原告に対し右手形割引を求め原告がこれを承諾し本件手形金額二十六万円に対する満期日までの七十日間日歩二十二銭の割合する割引料金四万四十円を控除した残金二十一万九千九百六十円を同訴外人に交付して本件手形を取得したこと即ち被告より原告に交付すべき右割引料金四万四十円の授受を省略し右割引料控除残金を本件手形所有権の代金として原告が被告よりこれを買取つたものであることが認定できる。従つて右手形割引料は経済上消費貸借の利息と同一視すべきも法律上金銭貸借の法定果実ということができないから利息制限法の適用がなく、ただ手形譲受人が手形譲渡人の窮迫無経験に乗じて著しく高率な割引料の天引を約諾せしめるときは右手形売買に附帯する割引料取極契約が法律上無効であつて民法第七百八条但書により手形譲渡人が直接の相手方に対して取得すべき割引料金の不当利得返還請求権を以て手形金の請求に対抗できるものと解するのを相当とする。しかして昭和二十九年法律第百号利息制限法の施行前である昭和二十八年四月当時における当裁判所に顕著な一般金融市場の情況にかんがみ本件手形満期まで七十日間日歩二十二銭の割合による前示手形割引料取極契約が必ずしも公序良俗に反する高率な金融対価を目的とする意思表示であるとは即断することができないから被告の右人的抗弁は理由がない。してみれば被告は原告に対し本件手形金二十六万円及びこれに対する手形満期後である昭和二十八年六月二十四日以降完済に至るまで手形法所定の年六分の割合による法定利息金を償還支払うべき義務を負うものであることは明かであるから原告の本訴請求を正当として認容し民事訴訟法第八十九条第百九十六条を適用し文主の通り判決する。
(裁判官 南新一)